刃文について

銘は金工のノミの鏨で切りつける。ゆえに彫るでなく「切る」。銘は中心の表と裏に切る。帯刀したとき外(左側)にある方が表。刀工名を切る。裏は作刀された年月日。なお太万は刃を下にして左腰に付け、打刀は刃を上にして左腰に差すので、銘の位置は逆になる。

刃文とは焼き入れによってできた地肌(平地)と刃の境界線の模様。
刀剣鑑定に欠かせない「沸」「匂」と呼ばれるものがある。肉眼で星のようにキラキラして見える粒が沸。肉眼では捉えにくいが、天の川のようにかすんで見えるのが匂。鋼が化学反応をおこしてできる冶金学でいうところのマルテンサイトの結晶体である。沸と匂の集めあわさったものが刃文である。

この原理を経験から知った、いにしえの刀鍛冶が意図的に刃文をつくりはじめた。この方法が土置。焼刃土を竹のへらで塗り、刃文の形をつくる。
焼刃土はおもに粘土、砥石の粉末、木炭の粉末でつくられているが、刀鍛冶それぞれの一門(流派)によって異なる。

焼刃土が塗られた刀身を高熱で焼き上げる。これを水桶に入れ、一瞬にして冷却する。これが「焼入れ」。焼き入れの水の温度は十度から二十度といわれるが、焼刃士、焼き入れの水の温度はある意味、秘伝。

刃文は鋼と火と水でつくられた幻想的な世界である。